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タックスニュース
211014


「値ごろ感を演出する」ユニクロの戦略



 この不況下に「ユニクロ」こと「ファーストリテイリング」が過去最高益を発表しました。

 服飾業界では、ダントツの利益率です。
国内ユニクロの2009年8月通期の業績予想は、直近予想数値(4月9日発表)に比べて売上高は170億円増額の5,380億円(前期比+16.4%)、営業利益は70億円増額の1,120億円(同+29.6%)となったようです。
この不況下に、何がユニクロをここまで押し上げたのでしょう。

 簡単に考えると、低価格と高品質が、時代に合っていたから。
まさにその通りですが、何が、消費者の心理的トリガーを引かせたかをもう少し深く考えてみませんか。

 実は、ユニクロの製品は衣料品の「最安値」では、ありません。
「値ごろ」ではありますが、最安値ではないのです。
「イオン」や西友の「KY」など、スーパーの商品のほうが安い。
イオンなどは、ユニクロの半額だったりしますが、ユニクロほどの売上げはない。

 今では、当たり前のTシャツやポロシャツでさえ量販店で買おうと思わない。
まず「ユニクロ」で買おう。「ユニクロ」を見てから。そう考えてしまいます。

つまり、多くの人が、普段着において、まず「ユニクロ」をチェックするようになったのです。
そういう習慣がここ数年でついてしまったのです。

 量販店じゃ安っぽいし、いわゆるブランドは、高過ぎる。値ごろ感がないのです。
ユニクロは、品質が良くなってきたし、シンプルで恥ずかしくない。

あれこれ買っても安いし、安物を買ったという後悔もない。
そんなこんなで「とりあえずユニクロ」という位置付けがここ数年で我々の心の中でできてしまった。
そういう絶妙な位置付けがフリースブーム以来ここ数年の企業努力で培われてきているのです。(その1))


 今の消費者の心理は、「安いだけじゃダメ、高級なだけじゃダメ、そして、押しつけがましいものはいらない。」というような状況ではないでしょうか。

 さらに、この不況下。消費者は、予算を明確に決めて買い物に来ています。
もう少しわりやすくいうと、「財布の中身の奪い合い」が、日々起こっているわけです。

 消費者の財布の中身を奪う、心理的トリガー。
ユニクロのそれは、「値ごろ感」だと思うのです。

その定義は、「安いだけじゃダメ、高級なだけじゃダメ、そして、押しつけがましいものはいらない。」ではないでしょうか。買い手が潜在的に求めていたものにピッタリくるから、ユニクロは受けるのです。

 皆さんが作られている商品や製品には「値ごろ感」がありますか。
単に値下げをして、売れたと喜んでいませんか。

マルクスの資本論にも書いてありましたが、私は、大量のものを単に価格を下げて大量に供給することは、人を不幸にすると思っています。

 この不況下では、消費者の財布の中身はかなり絞られています。
でも、消費者は、潜在的に「いいものが欲しい」と考えている。
その矛盾を見事に解決してくれるものが、「値ごろ感」。もう少し簡単に書くと「割安感」なのではないでしょうか。(その2)


 ユニクロの戦略を概観してみましょう。

 「経営戦略論」を著したマイケル・ポーターは「5 FORCES(ファイブ・フォース)」という理論を提案し、その根底に「業界ありき」という考え方を持っていました。

まず業界に魅力があるか否かが大事であり、ポーターの提案した5 FORCESは、それを測るためのツールなのです。

 業界の魅力を重視する理由は、それによって企業が取るべき戦略が変わるからです。

ポーターは、魅力的な業界では、すでに業界として儲かる仕組みができているので、他社との違いを際立たせる必要はそれほどないと言っています。

また、その業界のリーダー企業は、業界の魅力を損なわないよう振る舞わないといけない。
わざわざ血みどろの戦いに持ち込んで業界の魅力度を下げることは避けるべきであるとも書いています。

 一方、魅力のない業界では品質やコスト面(オペレーション効率)だけではなく、独自の戦略とイノベーションによる競争(戦略的ポジショニング)が一層重要になってくると説いています。

 ポーターによると、いずれの業界でも重視されるポイントは、以下の5つ=5 FORCESになるといっています。
(1)参入障壁の高さ
(2)競争業者間の敵対関係
(3)代替品の脅威
(4)買い手の交渉力
(5)供給業者の交渉力

 5つの観点から業界分析を行えば良いというものです。
これを用いてアパレル業界の魅力度を検討すると、参入障壁は低く、価格競争で血みどろの争いが続いており、代替品の脅威は大きく、買い手である消費者に対して強気の価格設定を行える状況になく、供給業者に対してもそれほど強い交渉力を持っていない。

 結論として、現在のアパレル業界は、成熟しているといえます。(その3)


 皆さんも、ポーターの5 FORCES(ファイブ・フォース)を用いて、ご自分の業界を分析してみてはいかがでしょうか。

自分の業界が魅力のあるものかどうか、成熟しているのかどうかが、きっとわかると思います。
(現在において、成熟していない業種はほとんどないかと思います。それがポーターの理論の限界かと思います)

 そういう状況のアパレル業界の中で、業績好調なファーストリテイリングは、戦略的にみると、参入障壁を高くしてしまったと思います。

 「ベーシックで万人が着ることができる高品質で手ごろな価格のカジュアルウェア」そんなジャンルは、当たり前すぎていままで存在しなかったのではないでしょうか。

 だから「最安値じゃない」ユニクロが、過去最高益を更新するのです。
大切なのは、「お客様が、潜在的に求めていたけれど今までなかったもの。」それを、形にしていったということだと思います。

 今までにない市場を創り上げてしまう。
今までにない市場をいち早く創り上げてしまう。
これが、戦略的には、大切なのです。
ユニクロは、ユニクロというジャンルを築いてしまったのです。
それが、今のお客様の求めるものにぴったりと合っているのです。

 もう少し考えると、ユニクロは「オペレーション効率」を実現しています。
製造面では早くから中国に進出して高い品質管理を実現し、販売面では単品管理の導入で在庫管理の効率性も高めました。
それを徹底したということです。これが戦略的な見方です。(その4)


株式会社上坂経営センター


ゆりかご倶楽部






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